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最高裁判所第一小法廷 昭和39年(オ)128号 判決 1966年9月22日

上告人

右代表者法務大臣

石井光次郎

右指定代理人

上田明信

ほか二名

被上告人

三宅八郎

右訴訟代理人

平田省三

主文

原判決を破棄し、本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人上野国夫名義の上告理由一について。

民法四一四条二項・民訴法七三三条一項による授権決定にもとづく代替執行は、債務者のなすべき作為の内容を代って行う者が、債権者自身であると、債権者の委任した第三者であると、あるいは債権者の委任した執行吏であるとを問わず、ひとしく債務者の意思を排除して国家の強制執行権を実現する行為であるから、国の公権力の行使であるというべきである(民訴法五三六条・執行吏執行等手続規則五六条参照)。そして、強制執行は執行吏が実施するのが原則である(民訴法五三一条一項)から、本件の場合のように、強制執行の一である代替執行を授権決定にもとづいて債権者が執行吏に委任したときは、その執行行為は執行吏の職務内容に属するものと解するのが相当である(執達吏手数料規則七条参照)。

論旨は、代替執行は私人もなしうる行為であることを根拠にして、それは公権力の行使でもなく、執行吏の職務権限でもないと主張するものであるが、前段説示のとおり、この見解は採用することができない。

同二、三について。

原判決ならびにその引用する第一審判決の確定した事実によれば、被上告人は岐阜簡易裁判所において、菱田教に対し本件土地をその地上に存する生立木を収去して明け渡すべき旨の判決をうけ、該判決は、昭和三五年六月一二日確定したが、被上告人は履行をしなかったので、菱田教は、昭和三六年三月一六日、右収去の強制執行につき民法四一四条二項・民訴法七三三条一項により「債権者の委任する岐阜地方裁判所執行吏は、債務者の費用をもって生立木を収去することができる」旨の授権決定ならびに代替執行費用一万三千円の前払決定をえて、同月二八日執行吏堀江義雄に対し、右収去・明渡・費用前払の強制執行を委任したところ、同執行吏代理岸野守一は、右委任にもとづき、同年四月一日午前人夫六、七名を使役して執行をし、被上告人所有の本件生立木一四四本をごぼう抜きにし、これを差押え、水をやらずに本件土地の一隅に積み重ねておいたため、同月三日被上告人が差押の解除をえて移植したが及ばず、右生立木のうちサンゴ樹八本(時価一本千円)梅一本(時価二千円)柳七本(時価一本千円)貝塚伊吹百本(時価一本千円)が枯死し、被上告人は十一万七千円の損害を受けた、というのである。

原判決および一審判決は、右事実関係のもとにおいて、執行吏は移植の適期である雨期まで執行を延期すべきであり、また立木収去の方法としては適当な個所に仮植する等立木保護のため特段の注意義務があるのに、これを尽さなかった前記執行行為は違法であると判断しているのである。

しかし、前記判決が確定した昭和三五年六月一二日から被上告人が強制執行をうけた翌三六年四月一日まで約十カ月の期間が存したのであるから、被上告人は任意に適期を選び、自己の好む方法で移植することが可能であったのに、判決で命じられた義務を履行しなかったため、本件損害を招いたものであるのみならず、債権者は、確定判決にもとづき直ちに強制執行をすることができるし、したがって委任を受けた執行吏も速かに執行をなすべきであって、債権者にも執行吏にも移植適期まで執行を延期すべき義務は存しないものである。また、生立木収去差・押の方法として、執行吏が適当な土地を選んで仮植する等の手段をとることが好ましいにしても、そうしなかった本件執行行為を違法であるとはいえない。よって、論旨は理由があり、本件執行行為を違法と判断し被上告人を一部勝訴させた原判決および第一審判決の各部分は破棄・取消を免れず、被上告人の本訴請求は全部棄却すべきものである。

よって、民訴法四〇八条、九五条八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(長部謹吾 入江俊郎 松田二郎 岩田誠)

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